男性トイレに関する覚書

 

 男子トイレ占い、というものをご存知だろうか。もちろん聞いたこともないだろう。私がつい今しがた考えたからだ。トイレの話題だけに既にクソ記事の気配を察したあなた、あなたが女性なら、まぁ縁のない話なのでブラウザバックして頂いて構わないのだが、男性諸君はちょっと我慢して最後までお付き合い願いたい。

 男性には周知のように、公共の男性用トイレには個室とは別に小便器が横並びで設置されている場所が多い。その小便器が5つ並んでいて、あなた以外に人が立っていなかった場合、どのポジションを選ぶかによって、その人のパーソナリティを診断しようというものだ。早速やってみよう。

 ここに

 A B C D E と小便器が5つ並んでいる。あなたはどこで用を足すか。

 

(最初は図か絵を用意するつもりだったのだが、思いの外面倒だった)

 

 

 

 

・A or E を選んだあなた

 凡人である。安心して欲しい。社会にはきっとあなたの居場所がある。 あなたは、世の中にいてもいい。しかし、別にいなくてもいい。選んだその便器のように、社会の端にひっそり咲く儚い花のような存在である。

 

・C を選んだあなた

 私と同じ聖人君子タイプ。世の中が私達のような人間ばかりになれば、あるいはせめてこのような人間達が人民を導いてくれたのなら、世界から争いはなくなり、トマス・モアも納得の理想郷が築かれるであろうに。

 

・B or D を選んだあなた

 人間のクズ

 

 

 まず、ここで前提となるのは男性一般に広く共有されているであろう暗黙の了解だ。

 それは「他人が用を足している隣には立たない」もしくは「できれば立ちたくない」という男子トイレにおけるソーシャル・ディスタンスである。

 全く気にならないという人にも無縁の話ではないどころか、そういう人にこそ聞いて欲しい。あなたが気にしなくても、他人は気にするのだ。「自分がされて嫌なことは他人にもするな」は子供への教訓であって、大人なら「自分がされて嫌でないことでも、他人は嫌がるかもしれない」という想像まで働かせて社会に参加すべきである。

 おそらく先の診断の意味合いは概ね理解していただけたかと思うが、話をより分かりやすくするため、小便器の数を三つに減らして考えてみよう。

 

 A B C と三つの小便器が並んでいる。

 

 他に誰もいないこの時、真ん中のBで用を足す人間が無神経だという考えはそれなりに理解を得られると思う。次に来る人のことを考えていないからだ。次に来る誰かは、A、Cのどちらを選んでも彼と隣り合ってしまう。そのような事態をさけるため、最初にきた人は端の便器を選ぶのがマナーというものだろう。

 では問題の5つの場合はどうか。この5という数字がなかなか曲者なのだが、世の中の施設には思いの外この小便器が5つ並んだトイレが多い。その理由は定かでないが、私はこう受け取っている。我々は試されているのだ、と。

 

 A B C D E 

 

 まず、B、Dを選ぶ人がなぜ一番駄目なのかを説明する。

自分がBを選んだところで、次の人がDかEに立てば問題ないじゃないか、と思われるかもしれないが、それは次の次に来る人のことを考慮できていない。

 自分がBに立っていると、隣り合ったA、Cに立つ人はあまりいないだろう。次の人はDかEに立つ可能性が高い、すると二人の立ち位置は、

 

 A 人 C 人 E

 A 人 C D 人

 

 の、どちらかとなり、3人目は空いたどの便器を選んでも人と隣り合ってしまう。Dを選んだ場合も同じ。二人目の選択は不可抗力に近いので、これは最初にBかDに立ってしまった人間が招いた事態なのだ。

 

 次にA、Eを選ぶ人、これは悪くはない。しかし端が落ち着くからという理由で安易に選んでしまうのは共同体の一員として思慮が足りない。理由は二人目の人間を信頼しすぎだからである。

 自分がAに立った場合、二人目は隣のBには立たない公算が高い。次に来る人は実質C、D、Eの三択になる。先程、三択の便器で真ん中を選ぶ人間は無神経だと述べた。二人目はCかEを自然に選ぶだろう、という考えは甘い。この実質的三択は、見かけ四択だからである。

 

 A B C

 

 なら、真ん中のBを避けられる人でも

 

 人 (B) C D E 

 

 の中で「実質真ん中」のDを選んでしまう可能性はそれなりに高い。というか実際、こういうケースで深く考えずにDを選んでしまう人は結構多いのではないか。説明するまでもないが、二人目がDを選んでしまった場合、3人目は残りのB、C、Eどれを選んでも隣に誰かいることになる。これは直接的には二人目の責任だが、自分が最初に端を選んでしまったことが、二人目に「誤った選択の余地」を与えてしまった、という事実に目を向けなければならない。

 

 

 故に、Cなのだ。

 最初の男が立つべきその場所は。

 

 

 最初の一人が真ん中Cを選べば、その隣を避けた二人目の選択が両端A、Eの便器に限られる。彼がどちらを選ぼうとも、3人目は迷うことなく逆端の便器に向かうことができるわけだ。 これで最大人数である3人が快適に利用できる。

 先客のいない公共トイレで、我が物のようにいきなりど真ん中の便器を陣取る。一見して傍若無人、傲岸不遜な振る舞いに思えるこの選択こそが、実は先の先まで見据えた慧眼を持つ「デキる男」のスマートな身のこなしであることを、私は声を大にして広めていきたいと考えている。

 

 

 

 では、応用問題

 あなたが2人目だった場合どうするか。

 

 A B C D 人 

 

 端の便器Eが使用中である。まさかここまで読んできてBに立つなんて答える愚かな人はいないと思うが、AとCではどちらを選ぶべきだろうか。どちらを選んでも、3人目は人と隣り合うことを避けられる。どちらでもいいならば、なるべく離れた逆サイドのAを選びたくなる人が多いかもしれない。

 しかし、できればCを選んで欲しい。理由は3人目が来る前に最初の1人が出ていった場合、自分が最初の1人目になるからだ。最初の利用者が真ん中にいたほうがいい根拠は、既に述べた通りである。

 

 ラスト

 あなたが不幸な3人目だった場合は?

 

 A 人 C D 人

 

 最悪である。まさに、世の男性トイレからこのような状況を少しでも減らすべく、私は夜中にこんな駄文をしたためているのだ。

 この場合も、同じく真ん中のCを選んで欲しい。自分がCを選んでおけば、先客のどちらが先に出ていった場合も、次の人が快適に使える便器が空く。Aの場合もそれは同じだが、やはり二人共出ていった際に自分が真ん中を陣取っている利点が大きい。

 Dは最悪。自分がDに立ち、Eの人が立ち去った場合の形は

 

 A 人 C 人 E

 

 まさに不幸の連鎖。

 たとえ自分が不運の渦中にあっても、次にやってくる人間、次の世代の人々の安寧を願い行動できる人間になりたいものである。

 結局のところ、5つの場合は迷ったら真ん中選んでおけ、と言いたかっただけである。極端な話、5つ並んだ小便器というのは、4人目がこない限り真ん中と両端だけ使われ続けることが理想なのだ。

 知り合いの男性にも教えて上げてください。以上。

 

 

 

 

 書きたいことを書き終えて、満足感よりも緩やかな虚無感に苛まれている。

 こんな下らない記事を書いていたことで貴重な休日の二時間を潰してしまったこと、そしてこんなくだらない記事が、もしかしたらこのブログにおいて今までで一番世の中に役立つエントリかもしれない、と気づいてしまったからである。

 

 

  最後に、こんな記事に名前だしてゴメンな。トマス・モア。