結局人はいつ年をとるのか

 

 

 何の自慢にもならないのだが、私は他人の誕生日を憶えることが得意である。

 先日も知人の誕生日当日に予告なくプレゼントを渡したところ「よく覚えてましたね」と驚かれたのだが、続けて彼は妙なことを口走った。

「年をとったのは昨日なんですけどね」

 どういうことか、誕生日を間違えてしまったかと私が尋ねると、

 

「誕生日は今日なんですけど、法律上は前日に年齢が加算されるらしいです」

 

 とうんちくを披露してくれた。

 確かにそのような話は私も聞き覚えがあった。4月1日生まれの人が早生まれとして扱われるのも、そのことが関係しているとかなんとか。だが実際のところ、誕生日当日に加齢すると考えている人が世の中のほとんどであるし、この日本社会において年齢という基準は殊の外重要な指標である。もし前日に年を取るのであれば、そのことはもっと常識になっていなければならないハズではないか。

 どうにも怪しい。これは一度きちんと調べてみる必要がありそうだ。あ、いつもお世話になりますgoogle先生

 

 

 で、ネットで調べたは良いものの、これが何とも意見がバラバラで困ったことになった。

 誕生日前日の午前0時、つまり前日が始まった瞬間にもう年をとっていると解釈している人もいれば、当日にならないと年をとったと言えないという人もいる。

 一つ確かなことは『年齢計算ニ関スル法律』並びに『年齢のとなえ方に関する法律』という法律で、年をとるのは

「生まれた当日を起算日として一年の最終日が満了した時点」

 よってその日時は

「誕生日前日の午後12時」

 になるらしいということ。

 

 お、本当に前日なのか。と思いかけて一考、

「午後12時」とは言うまでもなく翌日の「午前0時」と同時刻である。なんだ結局、日付を跨ぐ瞬間なんじゃないか。そもそも「前日が満了した瞬間」は「前日」に含まれるのか? だってもう前日は終わったのだから。いや待て、でも確かに「当日が始まった瞬間」とも言っていないわけだから「誕生日当日」の方に含まれるとも自信を持って言えない気がする。

 どうやらこの妙な言い回しこそが混乱を招いているらしい。

 

 4月1日が早生まれになる件などについては一応説明がなされている。

 4月1日生まれの人間は3月31日の満了をもって年齢が加算されるため「日付で言えば、年を取るのは3月31日」という扱いになるらしい。3月31日の午後12時と4月1日の午前0時は物理的(?)には同時刻であるが、便宜上「3月31日の午後12時」という表記は3月31日に含まれ、「4月1日の午前0時」という表記なら4月1日に含まれるというわけだ。物は言いようである。

 また選挙権については20歳の誕生日の前日が投票日であったとしても、誕生日前日には20歳として扱われるため投票可能となっている。他にも学校教育法などでは、その満年齢に達する「日」を単位としている。「日」を単位とする法律では「時刻」を切り捨てるため、前日丸一日を有効としている。つまり公職選挙法学校教育法などでの満年齢は、誕生日前日が始まった瞬間=前日の午前0時に加算される。

 よってこれらの法律上の文脈で言えば「誕生日前日に年をとる」は完全に正しいと言える。

 

 ただし、この扱いはあくまで満年齢に達する「日」を単位とする法律上の話だけであって、拡大解釈してはいけない。色々調べている中で、とある雑学サイトに

「満年齢は誕生日の前日に加算される。よって20歳の誕生日の前日から飲酒喫煙は可能である」

 などとしたり顔で書いてあったが、とんでもない。これ見つかったら書いた人捕まるんじゃないか? 

「日」を単位とする法律には「××歳に達した日」などという文言がある。未成年の飲酒喫煙に関する法律には単に「満20歳未満の者の飲酒or喫煙を禁止する」としか書かれていないため、これは時刻まで考慮されると考えるのが妥当。当然、20歳の誕生日前日の午後12時=当日の午前0時になるまではアウト、と解釈すべきだ。

 

 どうやら法律上、人が年を取るのは「誕生日前日の終了時刻」であるが、その「日付」は前日か当日かどっちなんだと問われたら「前日の方だ」としか言いようがないらしい。この意味で「誕生日前日に年をとる」は間違っていない。

 ただし、その前日が始まった瞬間から有効なのか、それとも前日が終わる瞬間なのかは「個々の法律の文脈に拠る」としか言えないようだ。だから昨日まで19歳だった男が、誕生日の前日の昼ごろに「俺はもう20歳になってる」と言えるかというと、多くのシチュエーションでは言えないのではないか。少なくとも居酒屋やコンビニの店員はそれを認めてはいけないわけだ。

 結局のところ「日付が誕生日になった瞬間に年をとる」と考えておくのが一番分かりやすくいて都合がいい。何度も繰り返すが、厳密には「前日」ではなく「前日の午後12時」なのである。これを「当日の午前0時」と解釈して一体何の不都合があろうか。わざわざややこしく考えるのは、法律を作るお偉いさん方と、雑学マニア達に任せておけば良い。

 

 (これは完全に余談になるのだけど、色々サイトを巡っている中で「午後12時」を昼の12時だと勘違いしている人が少なからずいたのには驚いた。実は私の周りにも日付が変わる時刻を「午前12時」だと勘違いしたりする人が案外いるのだが、24時表記が増えたことの弊害だろうか。始まる時刻は0時、終わる時刻が12時、ということがわかっていれば、午前が始まるのは午前0時、午後が終わるのが午後12時と分かり易い。

 はい、ちゃんと分かってる人には余りに馬鹿馬鹿しい説明でした。すみません。)

 

 

 

 ついでなので最後に「満年齢」「数え年」「周年」の違いも一応説明しておく。(調べりゃすぐ出ることだけど)

 

・満年齢:生まれた年月日を基点に「0歳」として、以後基点から一年が満了するごとに1歳、2歳と増えていく最も馴染み深い年齢の数え方。

・数え年:生まれた瞬間「1歳」になり、以後、誕生日ではなく新年1月1日を迎える度に加算されていく。よって12月31日生まれの人は、生まれた日に1歳、翌日2歳になる。1月1日生まれの人は翌年の同日に2歳になる。

・周年:生まれた年を1年目0年後として〇〇年後を数える。誕生日ではなく元日を迎える度に1周年、2周年、と増えていく。ただし、企業や団体によって数え方がまちまちらしいので解釈に違いがあるのかもしれない。人物の場合、没後も数え続ける。

 

 

 以上のことから1987年夏生まれの私は、

 2015年3月25日現在

 満27歳、生誕28周年、数え年29歳、

 

 

 

 

 

 

 職歴0年

 フリーター歴3年

 彼女いない歴6年

 喫煙歴7年

 麻雀歴8年

 独り暮らし歴8年

 

 

 あっ、なんかおなかいたくなってきた。

 

 来年の今頃は生誕29周年、享年27歳、一周忌になるかも。